【本の感想】デイヴィッド・ベニオフ(著)田口俊樹(訳)『卵をめぐる祖父の戦争』

デイヴィッド・ベニオフ(著)田口俊樹(訳)『卵をめぐる祖父の戦争』(早川書房、2011年)を読みました。

飢えと寒さが支配するレニングラード包囲戦の最中、17歳と20歳の青年が卵を求めて冒険を始めます。その冒険は戦争の生々しさ、悲惨で猟奇的で厳しさをシリアスに描きつつも、コメディを忘れずに盛り込んでいます。

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二人の冒険

飢えと寒さが支配するレニングラードなのに、依頼主は権力を笠に、娘の結婚式のためとはいえ、贅沢のために卵を依頼します。

そんなレニングラードでの冒険は常識を越えています。

戦争の悲惨さ

たとえば市場に出てくるのは飲用のメチルアルコール、貯蔵庫の泥が詰まった瓶、食べ物など無いはずなのにある新鮮な何かの肉、怪しげな交渉相手です。街の外へ出れば動物兵器、パルチザン、ドイツ軍が待っています。

それらは生々しく、悲惨で猟奇的です。戦争の厳しさを感じさせます。しかし、それらの多くは馬鹿馬鹿しい笑いであったり、さっと流すような描写なこともあり、物語全体が暗くならないようになっています。

そのため、戦争の悲惨さよりも二人のとんでもない冒険の続きが気になってしまいます。

暗さを明るくする相棒の存在

主人公と正反対であり、それがために主人公ともどもイライラさせられることもあります。なぜならば、相棒は向こう見ずで軽口が多く、下ネタばかりでチャラい感じだからです。

設定上、本来なれば物語全体は暗いはずなのです。しかし、相棒のキャラクターがその暗さをかなり薄くします。

☆5

卵を探すという本来のミッションを忘れてしまうほど、常識の通用しないシーンの連続に引き込まれてしまいます。

それらは陰鬱ではありません。ゴア表現もあり、さりげなく酷く厳しいことも描かれていますが引きずることはありません。リアリティのあるエンターテイメントです。ぐいぐいと読ませてくれます。

そして最後の台詞で思わず冒頭を読み直してしまいました。実に面白いです。

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